核兵器禁止条約発効へ
目加田説子 JCBL副代表理事
2017 年の 7 月7日に採択された「核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons=TPNW)」 が、 2021 年 1 月 22 日に発効した。
TPNWは、多くの人々の熱意と粘り強い努力により成立した条約で、“人類への贈り物”と言っても過言ではない。対人地雷やクラスター爆弾を禁止した「オタワ条 約」と「オスロ条約」との共通点も多いことから、ここでは条約の特徴を振り返りつつ、私たちが取り組めることについて考えてみたい。
1997 年に成立したオタワ条約は、対人地雷という兵器の禁止のみならず、被害に遭った人々の救済やその為の国際協力を明文化したことから、軍縮以上に人道の色彩が強い条約だと言われてきた。その年のノーベル委員会が、「地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)」に平和賞を授与した理由を「他のモデルの範になる」としたのも、他の非人道的兵器を廃絶する道が開けるよう期待を込めたからだ。
その後、10 年の時を経て 2008 年にはオタワ条約と同 様の手法――志の高い国々と国際赤十字委員会(ICRC) や国際機関、そして国境を超えたNGO ネットワークの 協働――によってオスロ条約が成立した。それから更に 10 年近くの時間を経て成立したのが、TPNW である。
TPNW はオーストリア、ニュージーランド、メキシコといった国々が「核廃絶国際キャンペーン(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons = ICAN)」とオスロ条約を下敷きに条文を練り上げた為、共通項が多い。 条約の交渉過程にも、対人地雷から尽力してきた ICBL やクラスター兵器連合(CMC)のメンバーが深く関わってきた。拠って、TPNW はオタワ・オスロ条約にとって は「兄弟」と言っても良いほど近しい関係にある。ただ、 TNPW は一番新しい条約だが、満を持して登場した「長男」でもある。核兵器は、包括的に禁止する条約が存在しなかった最大級の非人道的兵器だからだ。条約は発効したが、この先TPNW を“絵に描いた餅”にしない為に、 私たちに何ができるのか。クラスター爆弾の経験から考えてみたい。
オスロ条約が発効して間もなく、JCBL を含む 17 カ国 でクラスター爆弾の製造企業に対する金融機関の投融資禁止を求めるキャンペーンが立ち上がった。2010 年からは、金融機関の投融資状況をまとめた調査報告書『クラスター爆弾への世界の投資:共通した責任』がほぼ毎年公表され、各国内で金融機関への働きかけを行ってきた。 結果、今日ではクラスター爆弾への投融資は“最大のタブー”と呼ばれるようになり、米国を含む西側先進諸国での生産はなくなった。
核兵器でも、既に同様の取り組みが始まっている。オランダの NGO のパックス(PAX)は『私たちの安全を脅かす取引』と題した報告書で、主要な核兵器関連企業 18 社に世界の 325 の銀行や生命保険、年金基金、資産運用会社が約 7500 億ドル(約 81 兆円)投融資している実態を指摘している(2017 年 1 月~ 2019 年 1 月)。日本でも3大メガバンクを含む 8 つの金融機関が同時期、約 256 億ドル(約 2.8 兆円)投融資していることが報告されている。
一方、2020 年に共同通信が実施した全国調査で、3 大メガバンクやゆうちょ銀行を含む国内の 16 銀行が、核兵器を運搬するミサイル製造等に携わる企業への投融資 を自制する方針を定めていることが明らかになっている *。環境や社会問題解決を重視する「ESG 投資」の普及 や国際的圧力が背景にある。大陸間弾道ミサイル(ICBM) や核搭載可能な爆撃機等の開発に関わる核関連企業への投資実績については「ある」と回答した銀行はなかった一方、3 大メガバンクは「公表できない」と答えている。
JCBL ではクラスター爆弾製造企業への投融資に反対し「私のお金、私の責任」と題したキャンペーンを実施 したことがあるが、我々預金者が自らの預金や年金が非人道的兵器に投融資されることのないよう金融機関に対し情報開示、説明責任を求めていく必要があるだろう。
*アンケートは 2 月後半から 3 月前半に計 119 行に文書で実施、35 行が回答した。「国内 16 銀行に核兵器関連企業へ投資 自制指針あり」
『東京新聞』2020 年 5 月 4 日付。
オタワ条約第18回締約国会議開催
清水俊弘 JCBL 代表理事
11 月 16 日から 20 日までの 5 日間、スイスのジュネーブにて、対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)の第 18 回締約国会議が開催されました。昨年オスロで開催された第 4 回再検討会議で策定された、向こう 5 年間の活動 計画である「オスロ行動計画」の 1 年目の進捗を確認する場となります。
対人地雷は使ってはいけない兵器であるという規範 は、未加盟国も含む国際合意として強くいきわたっています。今回の会議にも 10 の未加盟国が参加しました。 近年では、政府軍による使用が確認されているのはミャンマーのみです。しかしながら、2019 年度に記録された多くの被害は、非国家武装勢力による簡易爆弾や簡易地雷*によるものが多く、こうした勢力をどう条約の規範 の中に巻き込んでいくかが問われています。
■はじめてのオンライン開催
世界規模で感染が広がる新型コロナウイルスの感染予防策として、今回の会議は初めてオンラインを主体とするバーチャルな設定での開催となりました。国連の広い会議場には下の写真のように今会議の議長を務めるスーダンのオスマン・アブファティマ軍縮大使とアシスタントのみが座り、各国代表団のスピーチや NGO などによる意見はすべてオンラインでスクリーンに映し出される形です。日本にいる私たちとしては、ヨーロッパまで行く必要がないのはいいのですが、8 時間の時差があるため、会議が始まるのは夕方 6 時(日本時間)、終わるのは夜中の2時となるので、正直なところすべてをフォローするのは難しかったです。
■2025 年までに義務を果たそう
会議の初日、一般討議においては、「2025 年までにす べてを終わらせよう」という期限目標に向けて、地雷除去、備蓄地雷の廃棄などの作業が遅れている国に対し、 期限を遵守し、速やかに義務を果たすことを求める声が多数上がりました。また、アイルランド、アルジェリア、 EU、オーストリアは、再び地雷の使用を容認する米国の新地雷政策に対して厳しい非難の声を上げました。
■オスロ行動計画、進捗の確認(コンプライアンス)
オタワ条約が発効して 21 年を迎えるなか、多くの加盟国や ICBL は、条約で定める実施期限に間に合わない国々に対して、より厳しい態度で臨んでいます。2025 年までにすべてを終えられるよう、なし崩し的に期限を過ぎる国が出てくるのを抑えるためです。
今回の会議では、第 5 条(埋設地雷の除去期限)の延長申請を出したナイジェリア、ニジェール、ボスニア・ ヘルツェゴビナ、南スーダンなど 9 カ国に対して、延長が認められました。しかし、既に期限が過ぎているにも 拘わらず、今年 3 月末までに延長申請を出していないエ リトリアに対して、5 条委員会の議長を務めるカナダや同委員会のザンビア、スウェーデン、ノルウェーから対応の改善を求める厳しい声が上がりました。ICBL もこれに続き、エリトリアに対して、12 月末までに詳細な計画を盛り込んだ延長申請を出すよう求めました。
また同様に、第 4 条(貯蔵地雷の廃棄)についても、 廃棄期限を過ぎている国への対応が厳しく響きました。 数年前に期限が過ぎているにも拘らず、延長申請を怠っているギリシャとウクライナはともに現状を報告し、それぞれ「完了に近づいている」と発言したものの、依然として不透明な状態が続いています。
■犠牲者支援に一層の努力を
国際的な支援総額のうち犠牲者支援に割り当てられるのは 1 割未満であるという状態が長く続いています。『ランドマインモニター報告 2020』によると、2019 年度に拠出された国際的な支援額のうち犠牲者支援に使われたのはわずか8%でした。この事実は、多くの加盟国において、 地雷被害者・障害者の社会復帰を目指す指針との間に依 然として大きなギャップがあることを示しています。 また、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、 こうした人々が医療にアクセスするための負担、リスクが拡大していることも含めて、特定分野に偏らず、オスロ行動計画で示されている多分野に行き届く柔軟な支援 の在り方が求められています。こうした考えを踏まえ、 条約第 6 条(国際協力の促進)の討議では、JCBL の清水が ICBL を代表してステートメントを述べました。
■オンライン会議の裏側で
今回、オンラインでステートメントを述べるにあたり、 ICBL 事務局からはキャンペーンのロゴやイメージ写真などが背景にあると良いというアドバイスを事前にいただきました。確かに、人だけが映り、ただ言いたいことを言っても、画面を通じてでは伝わりづらいこともある でしょう。 そこで、話す内容とマッチするような背景設定を考えてみました。ステートメントのポイントでもある「犠牲者支援に対する資金の配分」の問題が強調されるよう、 ミャンマーの地雷犠牲者の写真を大きく引き伸ばし、コ ーナーに ICBLとJCBL、そして「Finish the Job」のロゴを配し、“ICBL は犠牲者の代弁者” であることを視覚的にアピールしてみました。 この工夫はことのほか好評で、ICBL 事務局からもすぐに「背景の写真と、ストールのキャンペーンロゴが目立ってすごく良かった!」というメッセージをもらいました。ちなみに、メッセージが届いたのは日本時間の朝 10 時頃。ということは、彼らは夜中の 2 時にこのメッセージを送ってくれたことになります。 毎年そうですが、締約国会議の開催中は、論点整理からキーメッセージの配信、会議の速報づくりなど事務局スタッフの作業は膨大なものになります。いつもなら、 世界中から集まるキャンペナーのホテルや会議場への入 館パスの手配などもあるので、そうした負担は軽減されたかもしれません。とはいえ、彼らはサービス精神も旺盛なので、集まれない代わりにみんながオンライン上で雑談できる「キャンペーン・スナックタイム」と称する場を設定して、毎日スイス時間の 14 時 15 分から会議に関する情報交換やそれぞれの近況をざっくばらんに語りあう“オンライン飲み会”のような企画もありました。
さて、ヨーロッパのいくつかの国では新型コロナウイルスのワクチン接種が始まったようです。今年の 11 月は、 対面での会議が開けるようになるといいのですが。2025 年の期限目標に向かって、オスロ行動計画 2 年目の活動が着実に進展するよう、私たちもしっかりと役割を果たしていきたいと思います。
*缶やペットボトルなどの容器に火薬を詰めるなどして作る手製の爆弾
『ランドマインモニター報告書2020(Landmine Monitor Report 2020)』要旨
ICBLが、市民の目線で各国の地雷問題と地雷禁止条約に関 する最 新情 報をまとめ、毎 年 発 表している『ランドマインモニター 報告書(“Landmine Monitor Report”)』が、今年も発行されまし た。主な注目点を以下に紹介します。
今年の注目点
非国家武装集団( NSAG )の使用する簡易爆弾や簡易地雷による死傷者が急増しており、その大半は民間人である。現在の条約加盟国は164カ国で、この一年に新たに加盟した国はないが、 33の非加盟国のほとんどが国際的な規範に従って行動している。
使用
条約未加盟国であるミャンマー政府軍による2019年半ばから2020年10月までの対人地雷使用を確認した 。 NSAGでは 、報告期間中に少なくともアフガニスタン、インド、コロンビア、パキスタン、ミャンマー、リビアの6カ国にて対人地雷を使用しており、イエメン、インド、エジプト、カメルーン、シリア、ソマリア、チャド、チュニジア、トルコ、ナイジェリア、ニジェール、フィリピン、ブルキナファソ、マリにおいて新型の地雷が使用された疑いがある。
死傷者
2014年以降2019年まで5年連続で、対人地雷や対車両地雷、クラスター爆弾、爆発性戦争残存物(ERW)による死傷者が増え続 けている原因は、主に紛争国で簡易地雷が大規模に使用された ことによる。2019年には、少なくとも5,554人の死傷者が記録され、 うち2,170人が死亡、3,357人が負傷し、27人の生存状況は不明 である。 100人以上の死傷者を記録した加盟国は、アフガニスタン、イエ メン、イラク、ウクライナ、コロンビア、ナイジェリア、マリで死傷者のお よそ8割は民間人である。また、年齢が判明しているすべての民間人の死傷者の43%が子どもである。
地雷原
2020年10月現在、60の国と地域にて対人地雷が埋設されている。アフガニスタン、イエメン、イラク、ウクライナ、エチオピア、カンボジ ア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、タイ、トルコの10の加盟国に、100km²以上と定義される大規模な地雷汚染地帯が依然として存在すると考えられている。
地雷対策支援
2019年の地雷対策への国内外の支援は約6億5,070万米ドルとなった。2018年の拠出に比べると4,880万ドル減少しており、2年連続の減少である。 2019年の国際支援額は、35のドナーによる41の被害国および地域の地雷対策に対する5億6,130万ドルである。これは2018年から8,130万ドルの減少となり、国際支援が6億ドルを下回ったのは 2016年以来初めてである。
地雷除去
2019年には少なくとも156km2の土地で地雷除去がなされ、12万 3,000個以上の対人地雷の除去・破壊が報告された。これは、2018 年の推 定146km2、約 98,000より増加している。 大規模な地雷除去が実行されたのは アフガニスタン、イラク、カンボジア、クロアチアで、この4カ国だけで報告された除去地雷数の86%以上を占める。2020年には新型コロナウイルス関連の制限により、アルメニア、コソボ、コロンビア、ジンバブエ、セネガル、チャド、西サハラ、フォークランド諸島、ベトナム、ペルー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、レバノンにおいて、地雷除去が一時的に停止した。
被害者支援
多数の地雷被害者を有する34の加盟国において、この1年間で 被害者支援のアクセス、質、量が改善された。これらの国々の約3 分の2に支援の調整メカニズムがあり、18の加盟国で生存者の代 表が調整プロセスに参加している。 2020年の被害者支援活動は新型コロナウイルス関連の制限の影響を大きく受け、多くの被害国で地雷被害者および障害を持つ 人々は、サービスにアクセスし、平等に権利を行使することができなかった。感染拡大は、多くの国で長年の問題である被害者支援活動に携わる人材不足に拍車をかけ、特に遠隔地の被害者には、これまで以上に支援の手が届きづらい状況になっている。
生産
イラン、インド、韓国、北朝鮮、キューバ、シンガポール、中国、パキスタン、米国、ベトナム、ミャンマー、ロシアの12カ国を地雷生産国としてリストアップしている。米国が「対人地雷を生産しない」という 2014年の政策公約を撤回して地雷政策を変更したことにより、前回の報告書から1カ国の増加となった。
*『ランドマインモニター報告書2020』今年の注目点の全訳はこちら: https://www.jcbl-ngo.org/database/landmines/lm/lm2020/
* Landmine Monitor Report 2020(”英文)の 全データはこちら:
http://the-monitor.org/en-gb/reports/2020/landmine-monitor-2020.aspx
(翻訳 上沼美由紀 JCBL理事)
オスロ条約第2回再検討会議(第1部)開催
清水俊弘 JCBL代表理事
対人地雷全面禁止条約の第18回締約国会議が開かれた翌週、11月24日から26日までの3日間、スイスのローザンヌにて、クラスター爆弾禁止条約( C C M )第2回再検討会議の第1部が開催されました。議長国はスイスです。こちらも新型コロナウイルスの感染拡大に鑑みオンラインにて、5年前の再検討会議で採択されたドブロブニク行動計画の進捗を確認するとともに、この先の取り組みについて討議されました。
■強い規範力のある条約にするために
なによりも大事なことは、クラスター爆弾の使用を絶対に許さない ことです。一般討議の中で、クラスター兵器連合(CMC)の議長を務めるスティーブ・グース氏をはじめ、日本を含む多数の国が、シリアによる継続的なクラスター爆弾の使用や、ナゴルノ・カラバフにお けるアゼルバイジャン、アルメニア両軍による使用について厳しく糾 弾しました。
■条約の普遍化に一層の努力を
使用を止めることと加盟国を増やすことは条約の規範力を高める極めて重要な要素です。加盟国がなかなか増えない中、クラス ター爆弾使用国を含む未加盟国の早期批准を求める声が相次ぎ ました。ドブロブニク行動計画では、今会議までに加盟国が130カ 国に達することを目指していましたが、現時点での加盟国は未だ 110カ国に留まっています。条約普遍化の調整委員会のメンバーであるイタリア、スペイン、メキシコは、普遍化を促進するための非公式なワーキンググループを作り様々な角度から未加盟国の批准 を促す活動を提案しました。 オタワ条約の普遍化に貢献した特使(ジョディ・ウィリアムス氏のような人材)の任命や、軍縮の枠組みを超え、広く人権擁護一般の仕組みや持続的開発目標( SDGs )の中にも浸透するような働きかけが必要であるなど具体的な提案もありました。2月に採択されるローザンヌ行動計画の中に、こうした具体案が盛り込まれることを期待します。
■未加盟国の動向
オブザーバーとして参加した中国は会議2日目、自国が不発弾処 理や犠牲者支援の分野で積極的な支援政策を維持していること をアピールしました。併せて、中国が領域外でクラスター爆弾を一度も使用していないこと、またクラスター爆弾の輸出を厳格に管理していること、そして特定通常兵器の使用・制限条約(CCW)の議 論に引き続き参加する意思があることを表明しました。
■貯蔵弾の破壊(第3条)、不発弾の除去(第4条)を着実に進めること
これまでに36の加盟国が貯蔵弾の破壊を完了、数にして、150 万発の親爆弾と1億7800万発の子爆弾が破壊されました。条約では“8年以内に”とされていますが、過去10年の例では、ほとんどの国が期限よりも前に完了していることを考えると“、可及的速やか に”完了させることを基本とするべきです。今回の会議では、貯蔵弾の破壊期限が近い、ブルガリアとペルーが延長申請をしました。オスロ条約にて「10年以内」とされている不発弾除去について、ドブロブニク行動計画は、「2年以内に汚染地帯の洗い出しを終え、その後1年以内に計画を実行すること」を求めています。これまでに除去が完了した国はクロアチアとモンテネグロのみで、チリ、ドイツ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ラオス、レバノンの5カ国が延長を申請しています。
■犠牲者支援を充実させること
犠牲者支援は行動計画の中でも優先順位の高い取り組みであることを議長が強調しました。それにも拘らず、犠牲者支援に対する資金は支援総額の1割未満と低い現状があります。支援国側にバランス感覚のある分配を促すとともに、支援を必要とする国自身が、犠牲者支援の適切な受け皿となる制度や仕組みを構築する必要があることが繰り返し強調されました 。とりわけ、新型コロナウイルス禍で、予測不可能な資金不足に陥る危機感もある中で、 CMCは 、犠牲者支援を持続的開発目標( SDGs )の一環として位置付けるべきだとし、ラオスが不発弾から人々を守ることをSDGsの 追加項目に挙げていることを紹介しました。 第2回再検討会議の第2部は、2月4-5日に予定されています。 第 2 部 では 、第 1 部での議論を踏まえ 、条約発効から10年の総括と、向こう5年の活動指針を定める“ローザンヌ行動計画”が採択される予定です。
『クラスター爆弾モニター報告書2020(Cluster Munition Monitor 2020)』要旨
対人地雷と同様に、クラスター爆弾関連の情報をまとめた『クラスター爆弾モニター報告書 2020』も発行されました。主な注目点は以下の通りです。
■クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)の加盟国
加盟国は計110カ国で、最も新しい加盟国はセントルシア(2020年9月)、ニウエ(2020年8月)、モルディブ(2019年9 月)の3カ国である。
■使用と生産
2010年8月から2020年7月の間に、イエメン、ウクライナ、 カンボジア、シリア、スーダン、南スーダン、リビアの7つ の未加盟国でクラスター爆弾が使用された。シリアはクラスター爆弾を継続的に使用している唯一の国であり、 2012年7月以降少なくとも686件のクラスター爆弾攻撃が行われている。 これまでに17の加盟国がクラスター弾の製造を中止し たが、未加盟の16カ国は未だにクラスター爆弾を製造している。中国とロシアは2020年に新型クラスター爆弾を積極的に研究・開発している証拠が示されている。
■備蓄弾の破壊(条約第3条)
条約第3条の下、36の加盟国と2つの署名国が、1億 7,800万以上の子弾薬を含む計150万個のクラスター爆弾を破壊した。これにより加盟国が申告した世界の備蓄クラスター爆弾の99%が破壊されたことになる。 加盟国であるスロバキア、ブルガリア、ペルーは、2019 年に212の親爆弾と14,000以上の子弾薬を破壊した。備蓄破壊を完了した直近の加盟国はスイス(2019年3月)である。
■クラスター爆弾残留領域(汚染)
10の加盟国を含む26の国および地域に、クラスター爆弾の不発弾がある。アンゴラとコンゴ民主共和国の両署名 国には不発弾がある可能性がある。非加盟国であるイエメン、カンボジア、シリア、スーダン、南スーダン、リビアの6カ国には条約発効以後の新たな使用によりさらなる不発弾が存在しており、非署名国であるウクライナでも初 めて不発弾の存在が確認された。
■死傷者
2010年から2019年にかけての新たなクラスター爆弾による死傷者は、20の国と地域で少なくとも4,315人である。 世界の死傷者の80%以上がシリアで記録され、全死傷者の 40%が子どもである。2019年に記録された犠牲者全体の 99%は民間人である。このほか、リビアでもクラスター爆弾攻撃による死傷者が報告され、アフガニスタン、イエメ ン、イラク、シリア、セルビア、ナゴルノ・カラバフ、西サハラ、南スーダン、ラオス、レバノンの10カ国でクラスター爆弾の不発弾による死傷者が記録された。 世界34カ国および3地域におけるこれまでの死傷者の推定数は56,000人以上で、2019年には合計286人の新しいクラスター爆弾による死傷者が記録された。うち232人の死傷者を出したシリアでは、死傷者が2018年の3倍以上とな っている。
■不発弾除去(条約第4条)
条約の発効以来、6つの加盟国が不発弾汚染地域の除去作業を完了した。直近では2020年7月にクロアチアとモンテネグロが除去を完了した。2019年に条約加盟国によって除去された子爆弾の総数は96,533発、条約発効から10 年の除去総数は452,938発に及ぶ。
■被害者支援
クラスター爆弾禁止条約は史上初の人道的軍縮条約であり、正式な義務として被害者がいるすべての加盟国に 対する支援を義務付けている。しかし、十分な資金が分配 されていないため、被害者支援の改善と実施に影響を及 ぼし、雇用、適切な生活へのアクセスを確保するためのサ ービスが大幅に不足している。2019年末時点で、クラスタ ー爆弾の被害者を報告した14の加盟国のうち被害者支援計画を立てていたのは6カ国のみであった。
(翻訳 上沼美由紀 JCBL理事)
*クラスター兵器モニター CM2020今年の注目点の全訳はこちら:
www.jcbl-ngo.org/database/clustermunitions/cmm/cmm2020/
*クラスター兵器モニター CM20200 全データはこちら:
http://www.the-monitor.org/en-gb/reports/2020/cluster-munition-monitor-2020.asp
JCBL事務局だより
皆さま、新年あけましておめでとうございます。
昨年は新型コロナウイルスによって、物理的な移動が大幅に制限されましたが、 そんな中でも人道的軍縮を進める動きは衰えることなく、 しっかりと連絡を取り合いながら、 地雷なき地球およびクラスター爆弾の包括的禁止を目指すキャンペーンを 続けてきました。
今年は、 クラスター爆弾禁止条約再検討会議の第2部が2月に控えているほか、 今月22日はいよいよ核兵器禁止条約が発効します。 感染症に苦しむ人々が拡大している同じ世界に、無差別兵器による犠牲者も数多く 存在します。私たちにできることは、”人が止められることは、止めましょう”ということだと思います。今年も「人類が創り出した疫病」と言われる地雷、クラスター爆弾の 廃絶を目指し、微力ながら活動を続けてまいります。 どうぞよろしくお願いいたします。 (代表理事 清水俊弘)
◆ 第14回かめのり賞奨励賞受賞
国際的な人材を育てることを主眼に毎年様々な国際交流・国際協力団体を表彰しているかめのり財団から奨励賞をいただきました。副賞の30万円はミャンマーの地雷 犠牲者支援に使わせていただきます。
◆ 聖セシリア女子高校で講演
もうかれこれ20年ほど前から定期的に講演にお招きいただいている聖セシリア女子高校で、12月10日、代表理事の清水が講演をしてまいりました。講演後の感想では、地雷という兵器がもたらす社会的な影響や、被害者が背負う過酷な暮らしの現実、この“悪魔の兵器”を禁止に追い込んだ 被害者の声とNGOの果たしてきた役割などについて理解を深めてくれたことがわかりました。女子高だったこともあり、ICBLを牽引してきたジョディ・ ウィリアムス、リズ・バーンスタインの二人の女性についても関心を持つ人が多かったように思います。同校では毎年クリスマス献金をJCBLに送ってくださっています。オタワ条約が発効して以来、地雷の問題に向き合い続けている同校の教育姿勢に敬意と感謝の気持ちを伝えたいと思います。