ランドマインモニター報告書2020(Landmine Monitor Report 2020)

主な調査結果(major findings

ランドマインモニター2020は、地雷のない世界に向けた動きが継続して進展していることを報告する一方で、非国家武装集団(NSAG)が対人地雷、特に簡易地雷を使い続けているという問題を強調。簡易地雷により、2019年には再び多数の死傷者が出ており、その大半は民間人である。2020年初頭からのCOVID-19パンデミックの発生を受け、地雷による苦しみに終止符を打つという条約の最終目的に焦点を当て続けるために、予期せぬ課題への対応も迫られている。

現在、164カ国が地雷禁止条約に加盟しており、 報告期間中に条約に加盟した国はないが、33の非加盟国のほとんどが国際的な規範に従って行動し続けている。しかし、2020年1月に発表された米国の新地雷政策は、これまでの対人地雷の禁止と使用制限の流れに逆行しており、地雷のない世界へむけた歩みを後退させ、市民に対する無差別な武器使用に影響を与えるものとして米国内及び国際的な非難を浴びた。

各国が地雷除去を継続し地域の人々にリスク教育を提供する中で、モニターは2年続いて減少している活動資金の持続性を確保しつつ、更なる地雷被害者や地域の支援のための特定を行っている。

使用

2019年半ばから2020年10月までミャンマー(地雷禁止条約の締約国ではない)の政府軍による対人地雷の使用を確認した。NSAG(非国家武装集団)は報告期間中に少なくともアフガニスタン、インド、コロンビア、パキスタン、リビア、ミャンマーの6カ国において対人地雷を使用しており、イエメン、インド、エジプト、カメルーン、シリア、ソマリア、チャド、チュニジア、トルコ、ナイジェリア、ニジェール、フィリピン、ブルキナファソ、そしてマリにおいて新型の地雷を使用した疑いがある。

死傷者

2019年は5年連続で簡易地雷を含む対人地雷や対車両地雷、クラスター爆弾、爆発性戦争残存物(ERW)による多くの死傷者数が記録された。2014年から記録される高い死傷者の多くは、主に紛争に直面している国で大規模な簡易地雷が使用されたことによる。

2019年には、少なくとも5,554人の地雷/ERWの死傷者が記録され、うち2,170人が死亡し、3,357人が負傷し、27人の死傷者の生存状況は不明。

2019年の年間死傷者数は、2018年に記録された6,897人から減少したが、もっとも少なかった2013年の3,457人よりも60%増加した。

・100人以上の死傷者を記録した締約国は、アフガニスタン、イエメン、イラク、ウクライナ、コロンビア、ナイジェリア、そしてマリ。

・2019年の死傷者は55の国及び地域で確認され、そのうち36人が地雷禁止条約の締約国である。

・地域が判明している地雷/ERWの死傷者の大半は民間人である(80%)。

・年齢が判明しているすべての民間人の死傷者の43%が子供である。

・性別が判明している死傷者の85%が男性と子供である。

地雷原

2020年10現在、60の国と地域に対人地雷が埋設されている(地雷禁止条約の33の締約国、22の非締約国及び5つの地域が含まれる)。

・3締約国(アルジェリア、クウェート、ニカラグア)が残留地雷の程度を、5締約国が(カメルーン、チュニジア、ナイジェリア、ブルキナファソ、マリ)が地雷埋設の疑いや既知の情報を提供する必要がある。

・2018年に地雷除去の終了を宣言したモーリタニアは、2019年に1970年代の西サハラ紛争に起因する新たな地雷原を発見し、それが実際に自国の領土にあったのかどうかを確認する必要があると報告した。

アフガニスタン、イエメン、イラク、ウクライナ、エチオピア、カンボジア、ボスニア・ヘルツェゴビナ(BiH)、クロアチア、タイ、トルコの10の締約国に、大規模な対人地雷汚染(モニターによって100km2以上と定義される)が存在すると考えられている。

地雷対策支援

2019年、ドナーと被害国の地雷対策への国際的および国内の支援は合わせて約6億5,070万米ドルとなった。2018年の拠出に比べると4,880万ドル減少しており、2年連続の減少となった。

2019年には、35のドナーが41の被害国及び地域で地雷対策に対する国際的な支援に総額5億6,130万ドルを支援した。これは2018年と比較すると8,130万ドルの減少となる。国際支援が6億ドルを下回ったのは2016年以来初である。

・減少額のうち7,820万ドルは15の最大ドナーに起因する。それにもかかわらず、この15のドナーが国際的な資金の大半(96%)を提供した。

・2019年には、27の国と地域で、2018年と比較して20%以上の資金変更がされ、15の国と地域の支援が削られ、7カ国が新たな支援を受けられなかった。

・国際資金は地雷除去とリスク教育(全資金の56%)、被害者支援(8%)、能力構築(1%)、アドボカシー(1%)に分配され、残りの34%はドナーによって配分されなかったか、または計上されなかった。

モニターは、アフガニスタン、アンゴラ、カンボジア、クロアチア、コロンビア、ジンバブエ、チリ、ボスニアおよびヘルツェゴビナ、ラオスPDR、レバノンの10カ国を地雷被害国と特定。独自の地雷対策活動プログラムに8,940万ドルの支援を提供したと報告した。これは2018年から3,250万ドル増加している。

地雷回避教育

地雷回避教育は支援行動の主要な柱となるべきものだが、過去10年間ほとんど注目や認知を受けておらず、その結果、たびたび資金不足に陥っている。2019年は爆発性兵器教育(EORE)と呼ばれるリスク教育の重要性が顕著に認識される年となった。

・2019年にEOREに関する取り組みを推進する国際諮問グループが設立された。

・第4回レビュー会議で採択されたオスロ行動計画には、地雷リスク教育とリスク削減に特化した一連の行動が含まれている。

・2019年には、28の締約国が地雷被害地域の人々に対してリスク教育を行ったことらが知られている。

2020年、リスク教育はCOVID-19パンデミックによって大きな影響を受けている。対面指導は地雷被害地域において行動の変化を促すための最適な方法だが、活動者たちはデジタル機器を用いてリスク教育とCOVID-19対策を組み合わせ、課題に対処すべく革新を行っている。

地雷除去

2019年には少なくとも156km²の土地で地雷除去がなされ、123,000以上の対人地雷が除去され破壊されたと報告された。これは、2018年の推定146km²、約98,000より増加している。

・2019年に最大の地雷除去が達成されたのはアフガニスタン、イラク、カンボジア、クロアチアで、合わせて記録されている地雷の86%またはすべてが除去された。

・2019年、アフガニスタン、イエメン、イラクでは、紛争や不安定な状況が続いているにもかかわらず、地雷除去が続けられた。

・2020年にはCOVID-19関連の制限により、アルメニア、コソボ、コロンビア、ジンバブエ、セネガル、チャド、西サハラ、フォークランド諸島/イラス・マルビナス、ベトナム、ペルー、ボスニアおよびヘルツェゴビナ、    レバノンにおいての地雷除去が一時的に停止された。

・条約発効以来、30の締約国、1非締約国、そして1地域がその領土におけるすべての地雷除去を完了した。

・チリは、2020年初頭にすべての地雷原の地雷除去の完了を宣言した最新の国となった。2019年に地雷除去の完了を宣言した国はいなかった。

・2020年10月15日時点で、25の締約国は、2025年までに第5条(地雷敷設地域における対人地雷の廃棄)の義務を果たす期限を迎える。2025年以降には、イラク(2028年)、クロアチア(2026年)、スリランカ(2028年)、パレスチナ(2028年)の4カ国が期限を迎え、セネガル(2026年)、ボスニアおよびヘルツェゴビナ(2027年)、南スーダン(2026年)の3カ国が2025年以降へ期限の延長を要求している。

・2020年に第5条の期限の延長を要求した8カ国はウクライナ、コロンビア、コンゴ民主共和国(DRC)、セネガル、ニジェール、ボスニアおよびヘルツェゴビナ、南スーダン、モーリタニアで、これらの要求は、2020年11月18日の締約国会合で検討される。

・エリトリアとナイジェリアは2020年に第5条延長要求を提出する予定だったが、2020年10月15日時点ではまだ提出していない。

被害者支援

以下の調査結果は、多数の地雷犠牲者を有する34の締約国に関連している。2019年から2020年にかけて、多くの国で、被害者支援のアクセス、質、または量が改善された。しかし、すべての国に重要な課題が残っている。

・34の締約国のうち14カ国だけが、認識されたニーズと援助のギャップに対処すべく被害者支援または関連する障碍者計画を実施した。9カ国は、被害者支援に関連する国家戦略草案の改訂または導入を完了する必要がある。

・締約国の約3分の2は積極的な調整メカニズムを持っており、18の締約国で生存者の代表が調整プロセスに参加した。しかし、彼らの関与が考慮または行動に生かされたという証拠はほとんどない。

・多くの締約国では地雷被害者および障害を持つ人々は、生存することに自体に支援を必要とし、経済活動の機会を得ることは非常に難しいままである。

2020年には、COVID-19に関連した制限によって被害者支援活動は大きな影響を受け、地雷被害者および障害を持つ人々は、多くの地雷被災国でサービスにアクセスし、平等に権利を行使することができなかった。パンデミックの影響は、多くの国で長年にわたる被害者支援活動に携わる人材不足問題に拍車をかけた。地雷被害者、特に遠隔地の被害者は、既に適切な支援に届くことが困難であったり、切り離されたりしていることが多かった。

備蓄地雷破棄と訓練目的の保有

地雷禁止条約の締約国は、2019年に破棄された269,000以上を含む5,500万以上の対人地雷を破壊した。

・ギリシャとウクライナは、共に備蓄破棄の期限を連続して破っており、条約に違反した状態が続いている。

・約400万の対人地雷を保有している3つの締約国は、ウクライナ(330万)、ギリシャ(343,413)、スリランカ(62,510)。

・合計64の締約国は、訓練と研究目的で合計145,000以上の対人地雷を保有しており、そのうち32カ国がそれぞれ1,000以上の地雷を保有していると報告された。

・ウルグアイ、ブラジル、ボツワナは、2019年に訓練目的で留保した地雷の破壊を報告した。

・オマーン、カーボベルデ、ジブチ、セネガル、トーゴ、ナイジェリア、ブルンジの7つの締約国からは、条約が発効して以来、訓練目的で保有している地雷の使用は報告されていない。

生産

モニターは、イラン、インド、韓国、北朝鮮、キューバ、シンガポール、中国、パキスタン、米国、ベトナム、ミャンマー、ロシアの12カ国を地雷生産国としてリストアップしている。

・対人地雷を生産しないという2014年の政策公約を撤回した米国の地雷政策の変更により、前回の報告書から1カ国増加した。

NSAGsは、報告期間中にアフガニスタン、イエメン、コロンビア、パキスタン、ミャンマーで簡易地雷を生産している。