ミャンマー最新報告 2023年12月

ミャンマーの地方民族自治地域の現況

2021 年2 月1 日のクーデターから2 年と10 ヵ月が経過、軍政は「非常事態宣言」の延長 を繰り返し、軍主導の選挙実施を目論んでいるが、民主派の抵抗も激しく、公正な選挙実施の見込みは全くない。
民族自治の強い地方では、乾期に入り政府軍と民族武装組織の戦闘が激化している。一部メディアでは民族統一軍(NUG)や各地に林立した自衛軍(PDF)の巻き返しが報じられてい るが、ロシアや中国からの軍事支援を受け圧倒的な装備で勝る政府軍はカヤー州、カイン州、 シャン州などの市街地にも空爆や遠隔砲撃を繰り返している。そのため、市街地の住民は、より安全な州や国外に避難している。カヤー州の州都ロイコーでは、政府軍の攻撃により11 月以降だけで少なくとも12人の子どもを含む76人が死亡、70人以上が負傷している。主の いなくなった商店では政府軍兵士による略奪行為が常態化しており、軍政が地方山間地を統 治できる見込みは全くない。

爆撃を受けたディモソ地区 11 月 30 日

避難するロイコー地区の住民  11 月 17 日

地雷被害の増加とDKK/JCBL によるサバイバー支援

UNICEF の発表では、2023 年に入り 4 月までに全国ですでに 388 人の地雷犠牲者が確認されている。この時点で、すでに 2022 年 の年間被害者 390 人に迫っている。特に多いのはザガイン州で全体の 38%を占める。ついで、カチン州、チン州、カヤー州と続く。
政府軍は、PDF やNUG の兵士が田畑や山林を移動することを知 っているため、そうした場所に多くの地雷を埋めている。 そのため、畑仕事をする農民も犠牲となっている。 KNDF(カレンニー民族自衛軍)のリハビリテーションセンターに登録されている地雷犠牲者は 現在 52 名。全てが男性で、うち 65%にあたる 34 人が市民である。
ディモソの高校に通うソー・ドー君(16 歳)は、戦闘から逃れるため、両親と共にワリカウク地区に移住し、そこでトウモロコシ栽培の作 業労働者として働くことになった。収穫の作業を始めて 3 日目、畑に埋められていた地雷を踏み、両足を失い、意識不明の重体で病 院に運ばれた。サッカーが好きだった彼は、両足を失った自分の未来が受け入れられず、深刻なうつ状態になり、何度も自殺を試みた。そんな彼に、DKK は治療費を支援、義足がつけられるように適切な治療を受けることができた。切断面の状態が良くなるにつれ、彼は本来の明るさを取り戻し、今では亡くなった自分の足をジョークのネタにするほどまでに回復した。

畑で地雷を踏んだ男性

友だちに誕生日を祝ってもらうソー・ドー君

生計をたてるために

JCBL が支援した 1 万ドル(約 150 万円)のうち、約 100 万円が地雷犠牲者(サバイバー)の ために使われた。支援はリハビリテーションセンターにいる 52 名のサバイバーにそれぞれ希望を聞いたうえで配分された。現在の「異常事態」の長期化が予測される中、サバイバーにとって必要なことは、家族を養う手段を確保することだ。
最も多かったのは、家畜飼育で 20 名に対して約 42 万円が鶏や子豚の購入費、小屋作りなど。次に多かったのは、菜園造りの取り組みで、19 名に対して約 40 万円が、農地の借地料や種や肥料の購入代などに使われた。 収穫した野菜は自分たちの食材になる他、多くの避難民が利用するペキン市場で販売し、幾ばくかの現金収入にもなっている。

借りた土地で栽培している豆、マスタード、トウモロコシ

養豚・繁殖させて販売する

また、菓子や日用雑貨などを販売する小売店やバイクや自転車の修理小屋を開きたいと希 望する人も 10 名おり、全体で約 20 万円(個々に約 2 万円)が開業資金として配分された。どの取り組みにおいても言えることは、混とんとした政情下でも生活を続けられることを第一に考えた支援になっていることだ。
購入した子豚は繁殖させ、増やすことができる。野菜も各種栽培することで販売収益を上げることができる。どちらも地元でペキン市場と言われている大規模な闇市で売買ができる。
地雷で片足を失ったバウ・レーさん(35 歳)は、3 人の子を持つ父親だが、足が不自由になったため、収入を得る仕事ができなかった。彼は、小売店の開業を希望し、JCBL から約 2 万円の支援を受け、菓子や日用雑貨を仕入れた。最初はとても小さな屋台で品数も限られていたが、徐々に売り上げを伸ばし、屋台は当初の倍の大きさになった。
彼は「足を失ったことで、生きる希望もなくしていたが、この店を始めて再び家族を養うことが できて生きていく自信が湧いてきた」と語っている。
残りの支援金は、政府軍の砲撃によって大怪我をした子どもたちの治療費や避難民村での子供の補助栄養食配給に当てられた。

はじめたばかりのお店

数か月後のお店

山間地の避難民支援

DKK が活動する、シャン州南部とカヤー州周辺の避難民村の点在地域。JCBL が支援していた KNHWO の工房があったのが、ロイコー(カヤー州の州都)、そこから車で 1 時間ほど下ったところに同州第二の町ディモソがある。ディモソから西側山間部、シャン州との州境付近に  多くの避難民村が点在し、DKK のベースもその近くにある。 プルーソには、約 2000 人が滞在する最大の避難民村があり、KNDF(カレンダー自衛軍)のリハビリテーションセンターもここにある。
同地域では、DKK を含め複数の人道支援グループが活動、支援地区や内容については、月に 2 回開かれる「キャンプ・コミッティ」で調整される。キャンプは、山間地に点在するため、医療支援や物資輸送は人力での運搬が中心となっている。 DKK は引き続き、移動診療や子どもたちへの教育支援、補助栄養食配給などを行っている。JCBL からの支援で子どもたちへの補助栄養食として牛乳が配給された。
DKK の活動体制は前回と概ね変わらないが医師が2 名増え6 名に、看護師4 名、教員5 名、その他ロジスティックス担当、ファンドレイジング担当など全体で 37 名が活動している。 ファンドレイジングチームは“Rice bag challenge”というキャンペーンで国内から年間約 4 万ドルを集めているという。海外からの支援はJCBL のみ。物資の購入はペキン市場が中心。 ペキン市場は急峻な山間にあり、政府軍の偵察機が低空で視察できない場所にあるという。

配給物資の仕分け作業

子どもたちへの牛乳配給

国軍の資金源を断つこと

今回も、多くの若者たちの未来を奪い続ける軍政の在り方に強い怒りを覚えた。 同時にこの政府を支え続けている日本政府の態度にも怒りを禁じえない。国軍の暴力的支配から一日も早く市民の安全を取り戻し、公正な政治プロセスへの軌道修正を促すためにも、引き続き、現状を訴え、メコン・ウォッチらと協調し、国軍の活動を支えるあらゆる資金源を断つ活動にも参加していく必要がある。

支援事業の概要

(1)事業名 :ビルマ/ミャンマーの地雷犠牲者及び国内避難民支援

(2)活動地 :ビルマ/ミャンマー カヤー州、シャン州

(3)支援対象:ビルマ/ミャンマーにおける戦争犠牲者、地雷犠牲者、及び同地域の国内避難民

(4)活動地の現況

ビルマ/ミャンマーの治安状況は2021年2月のクーデター以降悪化の一途を辿り、避難民は増得続けています。国連難民高等弁務官(UNHCR)の報告では、2023年4月現在、推定5万2千人以上が難民となって国外に逃れ、国内避難民は全国で推定180万人にのぼるとしています。
国連児童基金(ユニセフ)が9日に公表した報告書によると、2023年1月~3月のミャンマーの地雷・爆発性戦争残存物(ERW)による民間人死傷者数は302人に上り、1~2月の166人から急増しています。前年同期比では3倍となり、国軍と民主派武装勢力との衝突による民間人の犠牲者は増加の一途を辿っています

特にカヤー州、カイン州などの南東部では、無差別砲撃、武力衝突、地雷が民間人に影響を与え続けているほか、検問、夜間外出禁止令、障害物、恣意的逮捕も、人々の移動の自由を大幅に狭めています。避難民の家族は、適切な避難所の不足により、特に脆弱であり、多くのリスクにさらされています。食料と必須医薬品の不足は、カヤー州とカイン州、バゴー(東部)地域で懸念されており、人道支援においても、アクセスの制約は人道的介入を深刻に妨げています。

(5)活動に至る経緯

ビルマ/ミャンマーにおいて2021年2月に発生した軍部によるクーデターにより、軍政とそれに抵抗する  市民/民族グループとの抗争が激化の一途を辿っています。そのため国内の治安が急速に悪化し、NGOによる活動もそれまでと同じレベルでは実施が困難となりました。

JCBLは2017年より、タイ国境に近い南東部カヤー州で地雷犠牲者に対する義足支援を実施。これまでにおよそ200名の地雷犠牲者に義足を提供してきました。しかし、政府軍と民族武装グループとの衝突が激しくなり、地元のパートナー団体であるKNHWO(カレンニー・ヘルスワーカーズ・オーガニゼーション)の工房が閉鎖を余儀され、工房のワーカー達との連絡も途絶えています。地元メディアの報道でも、政府軍が使用する地雷による犠牲者が増えていること、特に国境地帯での戦闘が激しくなっていることもあり彼らの安否が懸念されています。

タイ国境(メーソット、メーホーソンなど)に逃れた避難民の正確な数は把握できmせんが、数百名から数千名規模のいくつかのキャンプサイトに分かれて滞在しており、それぞれ国連や現地NGOらによる支援(食料、日用品、タープ、衣料など)を得て急場をしのいでいますが、国際機関のアクセスが制限されている地域もあり、支援の手は行き届いていません。また、地雷などによる大怪我を負った人々をケアする施設は乏しく、現在はタイの王立病院で手当てを受けるしか選択肢がなく、費用や身分証明(ID)の問題から手当てを受けたくとも受けられない人が多数います。

そんな中、クーデター以降の戦闘で傷ついた人々を支援する目的で立ち上がった現地NGOがあります。若いボランティアで構成されるDove KK(*1)は、国軍の攻勢の激しい、タイ国境周辺の安全地域に3つの仮設病院を設置。地域の医師や看護師の協力を得て、戦闘で傷ついた市民の手当てをしています。また、国軍の使用する地雷による犠牲者に対しても、初期処置から回復までの期間のケアをしています。国軍と民主化を求める民族グループとの抗争に終結の目途が立たない中、このような地元有志の活動を支え、人々が安心して生きていける環境の回復に努めることが求められています。

*1:Doveはビルマ語で平和の象徴である鳩の意。KKはカヤー州と南シャン州を指す。

(6)活動内容:ミャンマー/タイ国境で避難生活を送る戦争・地雷犠牲者への支援

1.仮設病院(3か所)での医療サービス(カヤー州1カ所,シャン州2カ所)

医療施設へのアクセスが困難な僻地に避難している市民を対象に、現地の医師(1名)、看護師(3名)を配置し負傷者、疾病患者の手当て、療養を行う。

2.国内避難民に対する生活物資支援

タイとの国境周辺に避難している住民らに飲料水、食糧、生活必需品などを配布する。対象範囲は60カ所に及ぶが、国軍の乾期攻勢によって行動範囲が限られているため、安全に活動できる場所に限定して行う。配給物資は米、油、竹、タープなど。

3.地雷犠牲者に対する術後療養支援 

第1次支援では、現在DKKの療養施設にいる10名の地雷犠牲者の当座の生活を支える。次年度以降は、切断手術、義足などの装着が可能な病院への搬送資金も視野に入れた支援を行う予定。

(7)活動の目標:避難状況下で困窮する戦争・地雷犠牲者に対して医療サービスを提供し、安心に暮らせる環境の回復を目指す。

(8)実施協力団体:Dove KK

Doveは平和の象徴の鳩の意あり、KKはシャンとカヤーのシンボルであるカンナリカンナラの頭文字。南シャン州とカヤー州において医療活動を続けるほか、国内避難民キャンプの食料配給や子どもの教育支援も行っています。現在、9,000人の子供たちに食料を供給。また、義足を必要とする地雷犠牲者への支援も実施しています。

ミャンマー地雷被害者支援(2021年度までの事業)

ミャンマーの地雷被害者へ義足支援を行っています

ミャンマー連邦共和国には、現在、約 40,000 人を超える地雷被害者がいると推定されています。

ミャンマーではかつて軍政と民族グループとの争いの中、多くの地雷が使われました。カヤー州では身体障害を持つ10人に1人が、地雷が原因で障害を負っており、停戦合意がなされた現在も残留した地雷の被害に遭う人が後をたちません。険しい山々に囲まれた村の中で、政府の監視も厳しく外国人が自由に入れない中、これまで現地 NGO が地道に支援活動を積み上げてきました。しかし近年、こうした NGO への外国からの援助が減少し、支援を届けることが難しくなっています。

こうした現状を受け、JCBLは2017年度より、カヤー州でKNHWO(カレンニー・ナショナル・ヘルス・ワーカーズ・オーガニゼション)と協力し、年間約50名への義足支援を実施しています。

これまで(2020年6月現在)に、約200名の方々に義足を提供することができました。この活動は地雷なきミャンマーを実現する一つのアクションとして、また地雷犠牲者の社会復帰への第一歩としての取り組みになります。

被害者の方が日常生活を取り戻すための一歩となる支援に、ぜひご協力をお願いいたします。

50人の義足製作に 240 万円が必要です

義足を作るのに1人あたり42,000円
(内訳)
遠隔地への旅費・材料費・技師人件費3.8万円
支援にかかる現地管理費0.4万円
※そのほかにJCBL管理費として30万円/年

ご寄付にご協力をお願いします。

◆郵便振替◆
口座番号:00110-2-405727
加入者名:地雷廃絶日本キャンペーン
※通信欄にご住所・お名前と『ミャンマー支援』とお書きください。

◆銀行振込◆

三菱UFJ銀行(銀行コード00051)
支店名:上野支店(店番337)
口座/番号:普通0039883
名義:特定非営利活動法人 地雷廃絶日本キャンペーン
カナ:トクヒ)ジライハイゼツニホンキヤンペーン
※お手数ですが、お振込みの際は、事務局宛にメールでお名前、
 住所、電話番号、振り込み日時をお知らせください。
 事務局アドレス:office@jcbl-ngo.org

◆調査報告◆
ミャンマー事業についての詳しいご報告は下記ページをご覧ください。

◆2020年11月 ミャンマーにおける新型コロナウィルス対策の現状と義足支援
◆2019年11月 ミャンマー義足支援者へのインタビュー 
◆2019年11月 ミャンマー義足支援進捗報告 
◆2019年4月 ミャンマー義足支援進捗報告 

◆2018年10月 ミャンマー・カヤー州視察報告書 
◆2018年5月 2017年度義足支援終了報告 
◆2018年3月 『ミャンマー情勢と地雷被害者支援』開催しました

◆2018年1月 ミャンマー出張報告5:地雷被害者から支援者へ
◆2018年1月 ミャンマー出張報告4:援助から見るミャンマーの現在
◆2018年1月 ミャンマー出張報告3:地雷の被害は人だけでなく無差別
◆2018年1月 ミャンマー出張報告2:地雷被害者へのインタビュー(KSWDC)
◆2018年1月 ミャンマー出張報告1:地雷被害者へのインタビュー(KNHWO)
◆2017年12月 クラウドファンディングをスタートします!
◆2017年11月 現地での活動が始まりました、義足を受け取った方からの声
◆2017年3月 ミャンマー出張報告:地雷被害の状況、被害者支援の支援先を検討

新しい報告が入り次第、随時更新予定です。

最終更新日:2020年11月16日

★★★ ミャンマーアップデートのページでも現地情報をお伝えしています ★★★